NATAとは

NATAはアスレティック・トレーナーの業務を以下のように定義しています。

ケガの予防

☆ シーズン中前後のコンディショニング・プログラムを作成、実施
各スポーツのシーズンに合わせ、「期分け」をしてプログラムを作成します。
シーズン中にケガをせず、最大の能力が発揮できるような体力作りをしていきます。

☆ ケガをしないためのフォームやテクニックを選手に教育する
ケガの予防、再発予防をするためにはフォームの修正が必要になるケースがあり、各スポーツ特有の動き理解したうえで指導をします。

☆ テーピングの技術、サポーターの的確な選択
テープの1本1本の意味を理解し、ケガの予防、再発予防を行います。また最近ではサポーターにもたくさんの商品がでています。もっとも適切なものを選手に勧められるような知識が必要とされます。

☆ 競技場の点検
競技が行われる前に競技場を点検し、障害の原因になりそうなものはないか確認します。

応急処置

擦り傷の手当てから緊急事態までの対処方法

ケガの評価/マネージメント

◎以下のような順序でケガの評価をし、競技への参加/不参加を決定します
☆ 問診:ケガのメカニズム(いつ、どこで、どのように起こったのか)、痛みの種類、ケガの履歴などを問診
☆ 視診:歩行パターン、変形、変色、腫脹など
☆ 触診:変形、変温など
☆ テスト法:筋力、関節の可動域、関節の緩みなどを検査する

◎評価を元にケガのマネージメントプランを立てます
☆ ストレッチ
☆ 物理療法(冷却療法、温熱療法、電気療法、超音波療法など)
☆ エクササイズ(リハビリテーション)

アスレティック・リハビリテーション

※メディカル・リハビリテーションとの違い
日常生活水準を「0」として、ケガなどで普段の生活に支障をきたすことを「-(マイナス)」、スポーツ選手のようにひと並み以上のパフォーマンスが出来ることを「+(プラス)」と考ます。メディカル・リハビリテーションは「-」を「0」に、アスレティック・リハビリテーションはさらに「+」に戻すことを意味します。

☆ 競技復帰までの見通しを立て、プログラムを作成し実行する。
安全にかつ早く競技復帰させることがリハビリテーションの第一目的です。リハビリテーションのプログラムを成功させるためには、選手の心理的リハビリテーションも留意しなくてはなりません。

☆ 物理療法の適切な使用
リハビリテーションは治療と同時に行なわれることが多く、治療に使う機器に関してよく理解しておく必要があります。

☆ リハビリテーションに使用する器具の選択と点検

トレーニング・ルームの管理と運営

緊急事態の応急処置法、役割分担などを書類にし、いつでも実行できる体勢をとっておく。

教育とカウンセリング

☆ 選手と過去のケガの原因など再確認を行い、今後安全に競技が行えるようにカウンセリングを行う
選手が競技に完全復帰できる理由のひとつに「選手の心の準備」が上げられています。選手自身が不安に感じているようなら競技には復帰させず、なにが不安なのかカウンセリングし問題解決をします。

☆ 必要であれば、選手を専門家に紹介する
トレーナーの手におえない問題が生じたらすぐに専門医に紹介します。まちがった判断をくだすと選手の復帰が遅れるだけでなく、選手生命まで奪ってしまうケースも考えられるので、自分の立場と役割をよく理解して行動します。

☆ 選手だけでなく関係者全員に対しスポーツ障害について教育する
トレーナーの業務を関係者に理解してもらうと同時に、トレーナーもコーチやその他の関係者の立場や業務をよく理解することが必要です。トレーナーは決して単独で行動せず、スタッフの一員として行動します。

☆ 学生トレーナーの教育
アメリカでは上記の内容を認定者が学生トレーナーに教育することが義務付けられます。

カリキュラムとインターン

大学ではA.T.,C.になるために必要な「カリキュラム」が組まれています。ここには必修科目すべてが含まれており、A.T.,C.の元での800時間の実習など他の必要条件を卒業時点で満たしていれば国家試験を受けることができます。

「インターンシップ」制度は2003年3月31日に廃止されました。それまでは、たとえ専攻が「政治・経済」であっても、NATA指定の必須課目を履修したうえで1500時間の実習を行うなど他の条件を満たせば、認定試験を受けることができました。

NATAの認定テストを受ける条件

下記の条件をひとつでも満たしていないと、願書は受理されません。

  1. アメリカ国外での4年制大学以上の卒業証明書
    ☆ 2004年4月からはアメリカの4年制大学を卒業した人のみ申請が可能となりました。
    ☆ 大学在学中で卒業見込みのある者(卒業前の最終学期)は申請することができます。
  2. CPR(Adult CPR コース)認定書(期限の切れていないもの)
  3. 実習(インターン)時間
    ◎ 大学や高校のスポーツチームに学生トレーナーとして参加します。
    学校によって実習の進め方に違いはありますが、学年を重ねるごとに責任のある仕事を任されます。「学生」でも「プロ」として扱われます。
    ◎ スポーツによって起こりうる障害の度合いに違いがあります。
    実習時間の25%はコンタクト・スポーツ(衝撃のあるスポーツ:アメフト,サッカー,ホッケー,レスリング,バスケットボール,体操,ラクロス,バレーボール,ラグビー)の練習、またはゲームで実際に活動したものでなくてはなりません。ですから、実習を行う最低2年の間に複数のスポーツに関わることが必要です。
    ☆ 実習は必ずA.T.,C.の監督に基づくものでなくてはいけません。ただし身内のA.T.,C.監督によるものは認めらません。
    ☆ 遠征などの移動時間は含まれません。
    ☆ 試験日から5年以上経っているものは認められません。
    ☆ 「カリキュラム」では、2年以上5年以内に800時間の実習時間を要求されます。
    ☆ 「インターンシップ」では2年以上5年以内に1500時間の実習時間を要求されます。
    2年未満で800/1500時間の実習を行っても認められず、また5年以上かけて800/1500時間の実習を行っても認められません。
  4. 主な必修科目(カリキュラムにはすべて含まれています)

☆成績:「D」以下は取り直しです。
(A=4.0ポイント B=3.0ポイント C=2.0ポイント D=1.0ポイント E=0ポイント取り直し)
[1] 動物学
[2] 栄養学
[3] 人体解剖学
[4] 運動学・バイオメカニクス
[5] 生理学
[6] 運動生理学
[7] アスレティイック・トレーニング 基礎
[8] アスレティック・トレーニング応用
(ケガの予防、けがの応急処置、リハビリテーション、物理療法、ケガの評価など)

A.T.,C.よりアドバイス

大学の選択

アメリカには数えきれないほどの大学があり、それぞれアスレティック・トレーニングのプログラムは異なります。その違いはヘッド・トレーナーのこだわりであったり、伝統的な進め方であったりとさまざなです。渡米の前にNATAや帰国しているA.T.,C.などから情報収集を行い、十分な「大学リサーチ」をしてください。NATAのプログラム、もしくは大学そのものどちらかを重視して大学選択をしてはいけません。どんなに良いプログラムが組まれていてもレベルの高い大学では卒業が困難になります。まず、自分の学力にあった大学を探しましょう。そのうえでNATAプログラムの良い学校を選択するのが最善です。

私は大学リサーチをほとんどせずオクラホマ大学(The University of Oklahoma)を選んでしまいました。当時の私はNATAの存在をよくわかっておらず、叔母がオクラホマ州タルサ市在住だったこと、スポーツがさかんで私の成績でもついていけそうだということが選んだ理由です。NATAにはインターンシップとカリキュラムの2種類があるということも知らなかったのですが、オクラホマ大学はインターンシップ制度でした。ほとんどの生徒がHealth & Sports Sciencesを専攻し、そこに含まれない授業を選択科目として受講しました。必須課目に加えNATA指定の課目をとるとその分の時間と費用が必要になります。私は「スポーツと健康」を専門学科としていたため大きな負担にはなりませんでしたが、学生トレーナーのなかには教員免許の取得を同時に目標としている者がおり、彼らの受講数はかなりのものだったと思われます。授業よりも実際に体で覚えるほうが得意だった私にはインターンシップが合っていたようです。この点に関しては運が良かったといえるでしょう。カリキュラムだったら途中で挫折して可能性もありますから・・・。現在はインターンシップ制度が廃止されていますのでこのような心配はありません。

ところで、NATAのプログラムにだれでも入れるわけではありません。大学によって異なりますが、ほとんどの大学ではヘッド・トレーナーやアシスタント・トレーナーによる面接があり、成績やコミュニケーションスキルが試されます。

ここでオクラホマ大学の採用状況についてお話ししましょう。ほとんどの学生トレーナーは高校生のころからヘッドもしくはアシスタント・トレーナーと面識があったようです。ある生徒は応募用紙に紹介者の名前を書き、その紹介者がヘッド・トレーナーと不仲だったらしく危うく採用を拒否されそうになったそうです。外国人生徒を扱ったことのないヘッド・トレーナーは私の応募用紙に目を通すこともせず、面接さえも拒まれ、アシスタント・トレーナーが代わりに面接を行ってくれました。そのころの私の英語はひどいもので、そのうえ緊張するとさらにうまく話せなかったことからすぐに失格となりました。私は気合だけでも受け止めてもらおうと翌日から毎日のようにトレーニング・ルームに顔を出し「お願いします!」と頼み込んだのでした。さすがのヘッド・トレーナーも私のしつこさにはまいったようで、仕方なく受け入れてくれました。

当時のオクラホマ大学には学生トレーナーを採用するにあたってのマニュアルがいっさいなく、学生をどう教育するかのマニュアルもなかったに違いありません。プログラムがしっかりとしている大学では知識と経験の浅い1,2年生のころはObservation(観察)のみ、3,4年生は大学院生のもとでアシスタントとして実技を行う、といった形をとります。基礎である機能解剖は2年生で受講するわけですから、1,2年生がケガの対処や評価を行うのは不可能ですし危険です。3,4年生でも経験は十分でありません。かならずA.T.,C.の監督のもとで活動を行います。残念ながらオクラホマ大学ではそれができていませんでした。

それから、大学を選択する要素のひとつとして「学費」と「生活費」があげられます。ニューヨーク,ボストン,ロサンゼルスなどの大都市にある大学は学費や生活費が高くつきます。また、私立は州立の倍ぐらいの学費がかかります。また、「奨学金」の制度は大学によってさまざまですので、もっとも条件の合う大学選びをしてください。

言葉の壁

「TOEFUL」はご存知かと思います。私が渡米した当時アメリカの大学への入学には500点、短大には470点が必要とされました(現在はもうすこし厳しくなっているようです…)。これらの点数は授業を受けるのに必要な最低ラインで、勉強さえすればほとんどの人がクリアできる数字です。言葉の壁は実際にトレーナーの業務についてから始まります。

下の図をご覧ください。トレーナーは選手だけでなくコーチ,医者,選手の親族の掛け橋となりつねにコミュニケーションをとらなくてはなりません。練習中に選手の心理を察しながらも厳しくしたり、優しい言葉をかけたり。ケガが起こりそうな練習方法を見かけたときはコーチの意見を尊重しながらも危険性を主張し、コーチを納得させ、それらに代わる練習方法を提案します。チーム・ドクターや外部の医者にも選手,コーチ,親族の意向を伝えアドバイスをもらい、それらを選手,コーチに戻します。大きな障害が起きたらすぐに選手の親族に状況を報告し、今後のプランについて説明します。

「言葉より気持ち」はトレーナーの仕事では通用しません。緊急事態を例にあげましょう。骨折をしてパニック状態に陥っている選手がいてトレーナーはあなただけです。普段はたいして問題もなく会話している選手ですが、このとき選手はパニックになっているので早口でなにかを叫んでいます。あなたは聞き返すことなく選手の言葉を理解し、落ち着かせなくてはなりません。またこのとき、あなたの言葉は選手が難なく理解できるぐらいスムーズでないと選手はさらにいらだちます。やがて心配するチームメイトやコーチがあなたを取り巻き、状況が悪くなっていくなかで最善の対処をしなくてはならないのです。救急車を呼ぶような事態になれば、救急隊員とのやりとりを電話、もしくは現場で行わなくてははなりません。救急隊員はあなたのアクセントに慣れていません。1分を争う緊急事態で「言葉の壁」は厚いものです。

学生トレーナーの実習であっても、現場ではつねにプロ意識を要求されます。スポーツがビッグ・ビジネスであるアメリカでは、大学生、高校生の選手たちは必死です。有望な選手が学生時代にケガをしてそのときの対処方法で選手生命が奪われるようなことになれば、その選手は一生を棒に振ってしまうのです。実際に、大学にいけるほどの学力や経済力がなく本来なら就職するはずだった選手がたくさんいます。彼らは並外れた運動能力があったために大学へ入学でき、そしてプロになること目標にしているのです。このような状況で外国人留学生がトレーナーになるには、さらなる努力が求められるわけです。「プロ意識」を持てない人は必要とされません。

資格取得後はどうする?

  1. アメリカのプロスポーツ,大学レベルでのトレーナー
    一般的には大学院以上の学歴が必要とされています。大卒でプロチームのトレーナーになるケースもありますが、それには実力だけでなく「チームに知り合いがいる」などの「コネ」が必要です。「コネ」というとあまり聞き栄えがよくはありませんが「ネットワークを広げる」のはとても大切です。学生トレーナーであるうちにたくさんのトレーナー,医師,PT(理学療法士)たちと接することは、視野を広げるだけでなく将来の就職にもとても重要な意味を持つのです。
  2. アメリカの高校レベル以下のトレーナー
    大卒の学歴で可能。直接高校やチームと契約するトレーナーはいますが、クリニックなどに所属して派遣されるケースが多いようです。クリニックではリハビリテーションをおもな仕事としますが、リハビリテーションプログラムをPTの監督なしにアスレチック・トレーナーが組んだり進めたりすることは法律上できません。当然のことながら、両者の業務内容は同じでも収入に大きな差が出ます。こういったことから、アメリカではA.T.,C.とPTの両方の資格を有する人が多くなっています。アメリカにはあふれるほどのがA.T.,C.います。日本人A.T.,C.も少なくはないですが、チームを任されるポジションは安易に手に入るものではありません。実力,英会話,コミュニケーション,努力が必要です。

最後に…

渡米するまえに「自分はどういったトレーナーになりたいのか?」という最終目標を立てておくことが大切です。留学中にその目標が変わったとしてもまったく問題はないのです。漠然としたイメージしかないまま留学を終わらせてしまうと、理想と現実のギャップや資格取得後の就職活動で頭を悩ませることになるでしょう。

資格取得後、もしくは大学卒業後アメリカに残ることを希望する方がいらっしゃると思います。アメリカには「Practical Training」という制度があり、これを申請すると留学生が大学もしくは大学院を卒業後ビザなしで働くことができます。期間は1年間です。ただし、大学や大学院を卒業後、6ヶ月の間に申請しなくてはいけません(大学を卒業し大学院へ行くことを決断。6ヶ月以上在籍しなんらかの事情で大学院を断念。こういったケースでPractical Training」を申請するのは不可能です。6ヶ月未満であれば可能です)。申請にあたっては就職先を見つける必要があります。雇用が決定すると申請は受理されますが、卒業した学科と関わりのある仕事内容でなくてはなりません。「Practical Training」の期間は1年間で、その後その就職先があなたの滞在を望めばビザなしで3年延長することが出来ます。延長は3年ごとに行われます。

日本に帰国して活動を行いたいと考えるのであれば、留学中つねに日本のトレーナー状況を把握しておくことが必要です。アメリカではA.T.,C.しかトレーナーとして活動できないのに対して、日本ではさまざまな職域のトレーナーが活躍しているからです。また、日本では経済不況が重なりトレーナーの職につくことは困難になってきています。環境も状況もなにもかもが違うなかで、トレーナーとしてなにができるのかを見出すことが第1の課題となるでしょう。日本の経済やスポーツの状況は年々変化しています。つねに情報を収集し把握できるようにしておいてください。

組織が確立されているアメリカから組織化されていない日本へ帰国すると日本の状態を批判しがちですが、良いトレーナーとはどのような環境でも実力を発揮できる能力で決まると私は考えます。日本トレーナー界の魅力は、トレーナーにたくさんの職域があるということではないでしょうか。最近では東洋医学がアメリカでも認められてきていて、保険の対象になっています。整形外科医や神経内科医は積極的に鍼師とのかかわりを持ち、慢性のケガに対して処置を行っています。日本でもA.T.,C.を含めた様々なトレーナーが協力してトレーナー活動を行うことができたら、最高のものになるのではないでしょうか。

弊社契約スタッフ・本多 奈美