【2000 アリゾナ・スプリングキャンプ・ インターンシップレポート】

長谷川 徹夫 | 2000年4月15日

2月29日、400年に一度の特別なうるう日のこの日、成田を出発した。長時間の空の旅をして、まずサンフランシスコに到着。ここで、今回のインターンの機会をくださったJBATSの川島代表と合流し、フロリダ州レイクランドへ。翌日、そこで行われているデトロイトタイガースのキャンプを見学した。そこには野茂投手、木田投手と共に、98年にこのJBATSのインターンシップでアリゾナに行かれた早川和浩さんの姿もあり、キャンプ中の心構えや、アメリカでのトレーナーの様子について教えて頂き、数日後に控えたアリゾナでの研修に向けて、身の引き締まる思いだった。

3月2日、レイクランドで野茂投手の登板を見終えた後、アリゾナ州フェニックスへ移動した。フェニックス空港に到着後間もなく、今回一緒に研修を受ける川端さんと会った。この日は夜遅かった事もあり球場へは行かず、そのままタクシーでピオリアにあるホテルへ向かった。 3日、ホテルから数分歩いた所に今回研修を受けるシアトルマリナーズとサンディエゴパドレスがキャンプをしている球場がある。オープン戦を行うメイン球場を境目に左右対称の構造をしており、右にマリナーズ、左にパドレスの練習場用の球場やクラブハウスなどが配置されている。最初に行ったのは右側のマリナーズ。トレーニングルームへ入り、メジャーリーガーを目の前にしたとき、あまりの緊張に言葉を無くした。その緊張を和らげてくれたのが、ヘッドトレーナーであるリックグリフィン氏の笑顔とジェイビューナー選手のオナラだった。 キャンプでのトレーナーの仕事は朝7時から始まっていた。9時半から始まる練習に備えて、選手達が続々とトレーニングルームへやってくる。マリナーズでは、足首のテーピングやホットパック、ストレッチ、超音波を使ってウォームアップを行ったり、肩のトレーニングやリハビリなどの指示を出し、効率よくかつ、まんべんなく選手のコンディションを把握していた。そして、練習時間になると、選手と共にグラウンドへ出て、選手の動きに注意を払いつつ、選手のみならず監督やコーチなどともコミュニケーションをとっていた。約2時間の練習を終え午後からのオープン戦に向け治療を行い、ちょっとした合間を見て昼食を摂る。 試合中はベンチで選手のプレーに注意を払い、怪我の処置など適切な処置を行っていた。そして試合後はアイシングを中心に治療を行い、全ての選手が帰った後、翌日に備えてタオルや包帯などの用意とテーピングの補充を済ませ、トレーナーの1日が終わる。 マリナーズで研修を行っている期間中に、マイナーの選手の身体検査の手伝いをした。マイナーの若い選手達は腹部に締まりが無い選手が多く、身体の面でもメジャーとの差を見たように思えた。

9日からはサンディエゴパドレスへ移り、研修を受けた。 パドレスはマリナーズと違い、ホットパックやテーピングはほとんど使わず、PNFやマッサージをメインに行い、選手1人にかかる時間がマリナーズよりも多かった。チームによってウォーミングアップの方法がまったく違う事に驚いた。また、治療のほかに、ビジョントレーニングも行っており、いろいろな角度から選手のコンディション調整を行っていた。そして、痛み止めなどの薬を、いつ、誰に、どの薬を何粒投与したかをバーコードにより管理し、1日の最後にパソコンにまとめていた。 パドレスには毎朝6時半に行っていたが、私たちよりも先にトニーグウィン選手が来ており、入念にコンディションを整えていたのが印象的だった。実に8回も首位打者を獲得している原因がここにあるのだと思った。

その後、都合により予定されていたミルウォーキーブリューワーズでは研修が受けられなかったが、遠征に行った日に1日だけブリューワーズとカブスのクラブハウスに行き、見学した。 そして15日から再びシアトルマリナーズへ戻った。すると、つい1週間前まですべて埋まっていたロッカーが、半分くらい空になっていたのに驚き、あらためてメジャーに残ることの厳しさを思い知らされた。

私は歴代の参加者とは違い、ATCや鍼灸の資格が無かったこともあり、基本的な部分の手伝いしか出来なかったが、今回アリゾナでインターンシップトレーナーとしてメジャーリーグのスプリングキャンプに参加し、大変貴重な経験を得る事ができた。それと同時に今の自分に何が足りないのかを改めて知り、さらなる勉強が必要である事を実感した。 最後に、この機会を与えてくださったJBATS川島代表をはじめ、多くの方々にお世話になった事をこの場を借りて御礼申し上げると共に、今後もこの研修制度が続く事を願って止まない。




川端 昭彦 | 2000年5月20日

2000年3月2日、冬の寒さの残るピッツバーグから離れること飛行機でおよそ5時間、陽射しの強い春のアリゾナ州フェニックス空港に到着。今回の研修を共にする長谷川君に会い、シアトルマリナーズとサンディエイゴパドレスのキャンプ地であるピオリア・スポーツ・コンプレックスに向かった。この日は夜遅かったこともあり、そのままホテルにチェックインし、翌日から始まる研修に備えて休養した。

3日の朝7時半にマリナーズのクラブハウスに行き、大きなロッカールームを通りトレーニングルームに着いた時は、まさに朝の治療ラッシュの真最中。生まれて初めて生のメジャーリーガーを目の前にして、嬉しさのあまり呆然としてしまった2人を、ヘッドトレーナーであるリック・グリフィン氏が暖かく迎え入れてくれた。ホテルから歩いて数分離れたところに位置するスポーツ・コンプレックスは、日本にはない、まさにBaseballのための施設である。オープン戦を行うメイン球場を境に左右対称の構造で、右にマリナーズ、左にパドレスの練習場とクラブハウスなどが配置されていた。それぞれのチームが練習グラウンドを4面以上所有していることに、この国も広大さを改めて実感させられたような気がする。マリナーズのトレーニングルームは私が想像していたよりも小さく感じたが、それは鍛えぬかれた大きな体のメジャーリーガー達のせいかもしれない。そこにはテーピングテーブルが2つ、それに向かってトリートメントテーブルが3つ、そしてマッサージテーブルが1つあり、今年からマリナーズに移籍してきた"ハマの大魔神"佐々木投手を影で支え、 共にメジャーに挑戦する専属トレーナー、江川氏の姿があった。また、トレーニングルームを中心にWeight Room、Office、そしてHydrotherapy Roomが隣接しており、合理的なつくりになっていた。  マリナーズのトレーナーキャンプは朝7時からから始まる。まず、アイシングのためのアイスラップ、タオル、バンテージ包帯を準備・確認し、7時半から始まる朝の治療ラッシュに備える。マリナーズでは、主にホットパックや超音波を使ってウォームアップさせ、それに続いてストレッチが行われる。投手陣の多くは、定期的にPNF(D1/D2)やManual Resistance Exercise による肩のメインテナンスをトレーナーによって受けていた。ケガをしている選手のリハビリの際にはMuscle Energy Techniqueも使われていた。また江川トレーナーのマッサージを必要とする選手も多く、江川氏専用のテーブルには、常に選手がマッサージによる治療を受けていた。その他にも、足にテーピングを巻く選手が多くいたことには驚いた。また治療の際に、アシスタントトレーナーが治療記録を記したり、10時から始まる練習を前にWeight TrainingやバイクによるConditioningをこなしている選手もいた。 10時からの練習には選手と主にグラウンドへ行き、ケガのないように全体に目を配り、特に貴になる選手には更なる注意を払っていた。そして、コミュニケーションを通して、選手の状態を把握し、コーチや監督に伝えていた。 練習が終わると、午後から始まるオープン戦に備えて、選手の治療にあたり、昼食は治療の合間をぬって家事で済ませる。 オープン戦は毎日1時から始まった。試合中はトレーナーが一人ベンチに入り、もう一人はトレーニングルームに残り、試合を終えた選手の治療やケガをしている選手のリハビリにあたる。 試合後にも治療が行われ、最後に翌日の水とアイスラップを用意し、テーピングとバンテージを補充してトレーナーの一日が終わる。

パドレスの朝の治療は6時半から始まった。ホットパックを全く使わず、Soft Tissue/Deep TissueマッサージとPNFが中心の治療にはとても驚いた。また、キャンプ中はマッサージセラピストが手伝いをし、マッサージのタイプや選手の状態に応じてマッサージローションを使い分けていた。マリナーズと同じ構造のトレーニングルームでも、使い方がかなり違っていて、テーピングテーブルは1つもなかった。治療の進め方も少し違い、選手はトレーニングルームに来た順にWhite Boardに名前を書き、効率よく治療が行われていた。またビジョントレーニングなども取り入れ、違った角度からのトレーニングも行われていた。さらに痛み止めなどの処方薬はバーコードで管理し、どの選手がいつ、どれだけの量の薬を手にしたかという情報を明確にしていた。1日の最後には、個々の選手の状態、練習状況などが話し合われ、選手一人一人の治療ファイルがコンピューターにまとめられて、すべてのトレーナーが正確な選手の状態を把握できるようにしていた。またマイナーリーグのトレーナーが、ローテーションでメジャーのキャンプを手伝うことによって、 メジャーでの経験を与えるチャンスをもうけていた。

今回は、都合により予定されていたミルウォーキーブリュワーズでの研修を受けることができなかったが、遠征した際にクラブハウスやトレーニングルームを見学することができた。マリナーズやパドレスのトレーニングルームに比べて比較的小さかったが、3人のトレーナーが手際よく選手の治療にあたっていた。トレーナーが若いこともあってか、ヘッドトレーナーであるジョン・アダム氏の指示を元に、積極的に働いている印象を受けた。そして、クラブハウスも全体が新しく、とても近代的なつくりであった。また、Weight RoomもFree Weightが少なくマシン中心だということにも驚いた。

3月8、9日の夜にはアリゾナキャンプをしている10球団のトレーナーが集まるセミナーに参加することができた。そこでは、スポーツ栄養学、PNF、Sports Drink、トレーニング方法、キネシオテーピングなどの様々なトピックについての講演があり、新しい知識や情報が交換されていた。

アメリカの大学内でしかトレーナー経験のない私にとって、今回の研修はとても貴重なものとなった。全体を通して特に感じたことは、どのチームもHands-on Therapyが中心であるということだ。PNFや肩のメインテナンスにしてもトレーナーが実際に選手に触れて負荷をかけるManual Resistance Exerciseがリハビリ、メインテナンスの主流であった。大学のトレーニングルームでは、数多くのスポーツ、そしてたくさんの選手を治療するため、ダンベルやチューブ、マシーンを使って各自でリハビリをおこなうように指示を出すのが精一杯で、それが習慣付いてしまい、Hands-on Therapyの重要性を忘れかけていたような気がする。Manual Therapyはトレーナーが負荷を調節できるだけでなく選手のMotivationを高めるのだということを再確認した。 また江川トレーナーのマリナーズでの活躍・必要性を見て、初めて日本の鍼灸・マッサージ師のトレーナーのレベルの高さを感じた。たとえ日本とアメリカのトレーナーの定義や知識の基盤が違っても、最終的には"アスリートのベストパフォーマンスのため"という目的は同じであるということを実感することができた。

最後に、この機会を与えてくださったJBATS川島代表をはじめ、多くの方々にお世話になった事をこの場を借りて御礼申し上げると共に、今後もこの研修制度が続くことを願って止まない。そして一人でも多くのトレーナーがこの研修を通し、様々なことを吸収して、それを今後の活躍に生かして、個人のレベルだけでなく日本のトレーナーレベルの向上に貢献させて頂きたいと思う。